ウクライナ製 アンテナ アナライザー 活用

ウクライナ製 アンテナ アナライザー 活用

ここ数年UHFやVHFのアンテナ製作にのめり込んで、NanoVNAに御執心。すっかりウクライナ製のRigExportの存在を忘れていました。

手持ちのAA-54は 54MHzまでのアナライザーでPC接続に接続して、ネットワークアナライザーの様にスミスチャートもトレースする優れものだったのですが・・・。その座をNanoVNAに明け渡してしまいました。

NanoVNAが来るまでは、HFのモービルアンテナや50MHzのアンテナ製作に威力を発揮していたAA-54
NanoVNAと比較してみると大きいですね。中身はスカスカでした

コネクターもM接栓でいかにもビギナー仕様になってます。筐体は頑丈で何度か落下の憂き目にあいましたが、健全に動作します。

EMC対策のツールに

最近はPCと周辺機器を接続して使用する機器が増えています。特にUSBは万能インターフェースで世界中のあらゆるPC周辺機器と通信ができる接続方法です。最近はBT(BlueTooth)やWihiでつながるものも多くなっていますが、USBは高速化が進み、電力伝送などにも使われていて100WのUSB充電などと何でもありの状態になっています。

ここで取り上げるのは USBを接続したがエラーが多いなどとUSBケーブルの相性が良いとか悪いとかが取沙汰されますので、具体的に深堀してみました。

EMC規格

EMCとは(Electoromagnetic Compatibility)電磁両立性と呼ばれています。EMCには電磁妨害を出すEMI(Electoromagnetic Interference)と妨害を受けるEMS(Electoromagnetic Susceptibility)に区分されます。

通信エラーを引き起こすのはEMSが問題になります。例えば静電気や落雷による誤動作。工場や無線設備から放射される電磁性のNoiseによる妨害などです。今回はEMS(感受性妨害)について簡単に説明します。

静電気による誤動作       静電気試験      IEC61000-4-2

無線電磁波放射による誤動作   無線放射イミュニティ IEC61000-4-3

電源や信号線からの連続Noise   FTBNoise         IEC61000-4-4

落雷→電源から入り込むサージ  サージ試験      IEC61000-4-5

通信ケーブルに混入する無線妨害 伝導イミュニティ   IEC61000-4-6

IECとは国際電気標準会議の名称でこの下にJISやEU、FCCなどの国家規格が傘下につながります。

これ等の試験は電波暗室やシールドルームなどの施設と高額な試験装置を必要とされるため個人ベースでは試験が出来ません、しかしアナライザーを用いてFTBや伝導イミュニティの傾向を確認することは可能です。又 TDR測定で通信伝送の品位も確認できので、「使えるツール」と思っています

今回は RigExportを使ってUSB接続の設計評価を致します。

接続エラーを起こすUSB接続を誤動作を回避できる回路設計をする。
アンテナアナライザーをPCで動作させることで、簡単なネットアナライザーに変身
  1. スミスチャートのインピーダンス分析
  2. 周波数帯インピーダンスの表示
  3. リターンロス
  4. TDR (Time Domain Reflectometry) 時間領域反射

これらがUSB接続に対してRigExportで測定される特性です

まず RigExportを PCで動作させよう

付属のCDソフトをインストールします。
AntScorpe.exがPCの駆動アプリです。ComPortがあっていないと繋がりませんのでListRE.exeでComポートを認識させてください。
見つからない場合(コントロールパネル)→(ハードウエア)→(デバイスマネージャー)でComが見つかりますがWin8移行は仮想Comになるので接続したUSBポートを右クリックしてドライバーを探してください。
デバイスマネージャーの表示を有効にして非表示を表示にすると ポート(COMとLPT)が出力され接続されているCOMポートが表示されます。ドライバーの再確認することで接続は可能です。
ListRE.exeのPortとCOM/LPTそれにANT ScorpeのCOMPortが合致すると、今まで薄いツールバーのアナライザーのアイコンの液晶窓がブルーになります。

PC上でのアナライザーを使用してみよう

設定

  1. ANT Scorpeのアイコンの確認→タスクバーの「設定」を使用したアナライザーと合わせる→AA54
  2. COM Port の再確認→アンテナアナライザーのアイコンの窓がブルーになっていればOK
  3. 基準インピーダンスの設定→ここではUSBの設計評価の為90Ωに設定

Nano VNAもファームUpすればインピーダンスの切り替えはできるようですがRig ExportはImp設定があり簡単に変更可能です。50.75Ω.90Ω.200Ω.300Ω.600Ωと自由度が大きいです。

何かと話題のNanoVNAですが、目が遠くなった方には操作が大変。RigExportとNanoVNAの中間位の大きさがベストですね。どちらにしろPCでの操作が必要です。

表示/内容

  1. SWR端子側から見たSWRが指定周波数のスパンで見れる
  2. 指定周波数の範囲での位相確認できる
  3. Z=R+jXは端子のインピーダンスの実数と虚数が見れます
  4. Z=R||+jX  は3項 jXの位相が反転するポイント(共振ポイントが確認できます)
  5. リターンロス反射係数で大きいほうが良好な伝送回路です
  6. TDR(時間領域反射計)は少ないほうが良好な伝送回路
  7. スミスチャートチャートの中央がSWR(定在波比)の最良点となります。
  8. このほかにグラフのサイズや計測値のレンジの表示切替が出来ます

測定

  1. 開始で測定がスタートします。繰り返しモードにすると画面の下側にデーター転送のカウンターが0%から100%迄変化して繰り返します(2回くらい繰り返した値が正確でしょう)
  2. 開始・自動スタートが設定されていなくても火花マークをクリックすると一度だけトレースします
  3. FQは単一周波数の入力設定でSWRをスポットで測定出来ます FQ(設定)→123(SWR測定値)

接続端子の準備

アナライザーのコネクターはM接栓です。Mコネにミノムシクリップを取り付けて USBのGとD+又はD-と接続
周波数は低いのでミノムシクリップ使用、最短で取り付けてください。

ミノムシクリップに90Ωを挟みSmithチャートを確認

ほぼ中央90Ωですね

スミスチャートでは周波数が上がると右下にちょろっと90Ωがセンターから高いほうにずれていますね

SWRを見ると周波数が上がるにつれSWRはほんの少し高くなります

想定内ですね、ミノムシクリップで接続しても問題ない範囲です。

ほぼ90ΩですUSBの入力Imp測定するには問題ないでしょう。通常機器のRF信号確認は50Ωで実施してください(商品の仕様に合わせて実施)

USB C で製作したコネクター機器接続は最短で。

最近の部品は小さくて見えません

以前は 軽薄短小の波に乗った電子業界で技術立国JAPANの商品が誇らしかったのですが。使う人も軽薄短小です😢この部品を加工するのが間違いだったのでしょうか?

USBとBTの付いた端末機器のUSB信号の確認と改善手順

USB(下)とBTのUnit(上)が付いた端末機

USB端子にRigExportを接続 伝送パターンのCheckなので機器の電源はOffです。
マイコンの右上がUSB ブリッジICと既に取り外したESDダイオードの跡が見れます

Smithチャートを確認

EMC対策のESDダイオードが入力Impを変化させている?(回路上接続されているのはESDダイオードのみ)

周波数が高くなるとインピーダンスが低くなっていますね

90Ωから数Ω迄変化しています。この状態でUSBケーブルを長くするとトレースはスミスチャートの周囲をくるくる回ってしまいます。

思いっきりESDダイオードを取り外しました

ちょっとインピーダンスが低めになってますが、こんなもんでしょう

70Ω前後で推移しています。USBケーブルの長さにより大きくインピーダンスが暴れることは無いと考えます。SWR1:2の範囲内で推移するようです。

54MHzまでのインピーダンスを計ってみました

ESDダイオードが接続された場合のインピーダンス特性

 

jXが不安定にうねっています。 Rは90~0Ω迄変化

30MHz付近で位相が反転、共振、している可能性があります。

案の定、RF伝導妨害でUSBの通信障害を起こしました。

RF伝導妨害はIEC6100-4-6のエミュニティ妨害試験です。

ESDダイオードを廃止した場合

リアクタンス成分ほぼ0Ωですね インピーダンスは75Ωから50Ωで安定しています

スミスチャートで見ても90Ω(センター 1のポイント)より低いほうに推移しています。54MHzでSWRは1:1.7程度でしよう。12MHz(USBの通信レート12Mbps)ではSWRは1:1.5程度なので問題はなさそうです。

反射損失(リターンロス)

SWR(定在波比)をデシベル表示したのがリターンロスです。

ReturnLoss=20Log10(VSWR+1/VSWR-1)で表示され

SWRが1;1.5の場合13.98dBで約4%の反射Lossで、1:2.0の場合は9.45dBで約11%の反射Lossとなります。ReturnLossは大きいほうが良い伝送路と言えます。

ESDダイオードが接続された場合のReturnLoss特性

低域ではReturnLossは安定していますが周波数が上がるにつれて反射が大きくなっています

ESDダイオードを廃止した場合

ESDダイオードを廃止することでReturnLossは8dB程度は確保できています。

TDR特性

このほかに通信信号の品位を左右するものにインパルス特性やステップ特性などががあります。(インパルス特性は過渡パルスの応答特性でステップ特性は連続性 Noise信号に対する応答特性です)

ESDダイオードが接続された場合のTDR(Time Domain reflectometry特性) 時間領域反射

ーjXのキャパシタンス成分がインパルスの立ち上がりと立下りに影響しているようです
ステップ応答も容量成分が影響を及ぼしているようでステップパルスの平滑(積分)したエネルギーが残り高く推移しています

ESDダイオードを廃止した場合

ダイオードを廃止するとTDRは改善されました。

結果からUSBブリッジICとコネクターは最短で接続するのは鉄則です。余分にLCのフィルターを付加すののは問題がありそうです。

スミスチャートはESD廃止品はSWRが一定で、周波数依存は見られないチャートとなっています。

インピーダンス特性は27MHz以上でのESDダイオード付品は、 R,X,Zが畝っている。30MHz付近での無線妨害に危険性が有ります。

ReturnLossも27MHz以上は3dB以下でありESD廃止品より6dB程度悪化している。

TDRのインパルス応答とステップ応答の暴れが少なくなっています。TDRが大きいとサージや連続のパルス性Noiseでの誤動作が懸念されます。実際は高速通信になるとジッター測定と言われる、オシロでアイパターンを見るようなイメージで専用のジッターメーターで計測しています。昔CDプレーヤーの設計でCDデスクから読み込まれるデーター信号をアイパターンを見ながら、あれこれと対策したことを思いだいました。

簡易的ですが簡単なアナライザーで、信号のパターンモードを読み取りながら追い込みは可能と考えます。

これらの測定結果からESD対策(静電気)はダイオードによる対策から引き回しのパターンの対策に切り替えたほうがベストと考えます。

USB3.0用 ESDダイオード?

最近の高速通信に対応したESDダイオードは端子間容量(CT)は汎用品に対して1/10以下です。Highスピード用を採用していればインピーダンスの暴れもなく30MHzのUSBラインのRF伝導妨害の誤動作は改善される可能性があります。今回測定した回路には汎用品が使用されていますので、ESDダイオードの選定を変えるだけで改善される可能性もあります。

PCに接続しなくても変化は見れる

汎用品ESDダイオード取り付けのインピーダンス Ct=90pF
暴れが顕著。並列インピーダンスが跳ね上り、リアクタンス成分が下がりきっています
ESDダイオード取り外しのインピーダンス  C=0pF
PCで取り込んだ波形と近似ですね リアクタンス成分は0です
HighスピードESDダイオードを取り付けた場合 Ct=9pF
リアクタンス成分は見られますが整合インピーダンスは12MBpsであれば90Ω程度です

USB通信で高速のデーター転送を行う場合は スーパーHighスピード又はウルトラHighスピードESDダイオードを使えばデーター転送エラーと静電気の不具合は回避できそうです。

ウルトラHighスピードESDダイオードのCtは0.2pFです全然OKですね。

 

これ以外同軸のケーブルLossの評価(アンテナの接続Loss)や多層化したパターンの評価など(AA-54では ちょっと厳しいかも)いろいろ遊べそうです。RigExportを「引き出しの肥し」にせずいろいろ活用してください。